『田園の詩』NO.25  「急がば回れ」 (1995.2.21)


 私の住む大分県山香町では、この時期≪移動役場≫なるものが開催されます。町長
さんをはじめ役場の課長以上が各地区に出向いて、住民の要望を直接聞くというもの
です。

 以前は、人前で意見を述べるのが恥ずかしいのか、司会者が困るほど発言がなかっ
たのに、近頃は、時間が足りないくらい要望が次から次に出てきます。

 ちょっと皮肉的に解釈すれば、住民がそれだけ厚かましくなったとも言えなくはないの
ですが、やはり、田舎には、まだまだ改善してもらいたいところが沢山あるということで
しょう。

 要望の大半は、道路の整備・拡張に関することが主でしたが、そんな中で次のような
意見もありました。

 「道路の整備も確かに大切ではあるが、道だけが立派になっても、往来する人が居
 なくなったのでは何の意味もない。それより、わが町には全国に誇れるような遺跡や
 名所が少なからずある。石風呂、ストーンサークル、古戦場、鏝絵(こてえ)、名水な
 どがそれだ。いまそれらを訪ねてみると、道案内もなく、草に覆われて見る影もない。
 ひとつひとつを立派に整備するとともに、効率よく回れる道案内をつければ、人は必
 ずやって来る。人が通れば道ができるのであり、整備・拡張も必然となってくるので
 はないでしょうか。」


     
    鏝絵(こてえ)とは、漆喰を塗った上に鏝で風景や肖像などを描きだした絵です。
   蔵の壁や戸袋などに、七福神や鶴亀、竜など、お目出度い図柄が選ばれて描かれます。
   家の繁盛を願う気持ちが表れているようです。上手な左官さんが多くいたらしく、山香町を
   はじめ、近隣の市町村に、立派で、かつ、ユーモラスなものまで、沢山の鏝絵があります

                                        (08.5.28写)


 『急がば回れ』という諺がありますが、過疎の町の地域づくりにおいて、取り組むべきは
先ずなにかを、逆転の発想で指摘した提案でした。

 自分たちの地域にある自然や史跡を大切にして輝かせる努力もせず、また、子供達も全部
都会に出しておいて、当座の不便の解消に、道路を良くせよというのでは、やはり、厚かま
しいのではないかと、私も思います。

 「若者は都会が好きだから出て行くのではない。田舎が嫌いだからだ。」といった人がい
ます。田舎が好きになるような魅力ある地域づくりとは、自然景観を壊してまで、中央線の
ある道を縦横に張り巡らすことではないと思います。        (住職・筆工)

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